100万ドルの未解決問題 進捗がOpenAIに渡った
NYU数学教授のTristan Buckmaster氏が9月8日に声明を出し、ナビエ–ストークス方程式の存在と滑らかさに関する3つの証明を発表しました。ナビエ–ストークス方程式は流体力学で広く使われているものの理論面の理解が不十分で、クレイ数学研究所が設定したミレニアム懸賞問題7問の1つに入っています。最初に解いた個人やグループには100万ドルが贈られます。
Buckmaster氏はAnthropicに所属する数学者のLevent Alpöge氏と共同で研究を進め、CodexとClaudeの両モデルを使っていました。ところが証明をまとめている最中に「自分たちの進捗に関する情報がOpenAIに伝わっていた」と気づいたと声明で述べています。

- 9/8Buckmaster氏が3つの証明と告発の声明を発表
- 9/8Bubeck氏が「虚偽で扇動的」と否定する投稿
「誰もやっていない」解法 OpenAIが数日で再現した
Buckmaster氏がOpenAIに確認したところ、OpenAI側はすでに完全な証明を達成したと答えました。しかし研究をいつ始めたのか、人間がどこまで関わったのかを尋ねると返答があいまいになったといいます。最終的にチーム全体で取り組んでいたことと大量の計算資源を投入していたことが判明しました。
最初のプロンプトが送られた時期は「ここ数日以内」でBuckmaster氏らの進捗情報がOpenAIに届いた後だったと両者の間で合意されたとのことです。Buckmaster氏が取った解法はFeffermanの問題文のオプションcとdを経由するもので「ほぼ誰もやっていなかった」アプローチだと本人は述べています。同じ道筋を同じ時期にOpenAIが独力でたどり着いたとは考えにくいというのが同氏の主張です。なおAlpöge氏はAnthropicに所属していますがこの研究は同社の業務として行ったものではないと声明で触れられています。

Codexのデータが示す構図 研究の先取りは数学に限らない
先日にはClaudeがフェルマーの最終定理を機械証明したと報じられました。AIが数学の難問に挑む流れは加速しています。しかし今回の告発で浮かび上がったのはAIの能力ではなく情報の流れの問題です。
Codexの利用規約にはモデル改善のためにユーザーのやり取りを使う権利が記されています。研究の途中経過をAIツールに投げたとき何が読み取られるかは数学だけの話ではありません。企業のR&Dや特許出願前の検討でも同じことが起こりえます。AI学習の是非をめぐる法的議論がすでに法廷で続いているなかで研究データの扱いは新たな争点になりそうです。

Bubeck氏は「虚偽で扇動的」と否定 全文はまだ出ていない
OpenAIで数学研究を率いるSebastian Bubeck氏はBuckmaster氏の主張を「虚偽で扇動的だ」と投稿で否定しました。「学術の規範に従って議論に入った」とも書いていますが詳しい反論はまだ出ていません。近く正式な声明を出すとしています。
双方の主張が出そろうまで事実関係は確定しません。AIツールで研究を進めている方は利用規約のデータ使用条項を確かめ、途中成果の取り扱いがどうなっているかを把握しておくことをおすすめします。
- ナビエ–ストークス方程式
- 流体力学の基礎方程式。理論面の理解が不十分でミレニアム懸賞問題の1つに選ばれている
- ミレニアム懸賞問題
- クレイ数学研究所が2000年に設定した未解決の数学問題7問。1問を解くと100万ドルが贈られる
研究者がCodexに途中の証明を投げれば提供元はその方向性を知りうる立場にあります。今回は数学でしたが同じ構図は企業のR&Dでも起こりうるとみています。自社の研究データをAIツールに渡している会社は利用規約のデータ使用条項を確かめておくべきです。Codexの規約にはモデル改善のためにデータを使う権利が明記されています。社内のAPI利用ガイドラインを先に整備しておかないと情報が意図せず外に出てから気づくことになりかねません。
この記事の出典
補助資料
- [1]TechCrunchこの記事の元にした報道
出典の最終確認日:2026年9月9日
