米司法省が「AI学習は合法」と意見書を出した
NYTは2023年末に訴訟を起こした。ChatGPTの基盤となるLLMが同紙の記事数百万本を無断で学習に使ったと主張し、数十億ドルの損害賠償を求めている。この訴訟に対して米司法省が9月1日、OpenAI側を支持する意見書を提出した。
意見書は「フェアユースの法理を狭く解釈してLLMの開発を制限すれば、創造的・科学的進歩を阻害し米国の繁栄と経済的流動性を妨げる」と述べている。法的拘束力はないが政権として「AI学習は合法だ」と明確にした形だ。
司法次官のスタンリー・ウッドワードJr.氏はAI分野での優位性が国家安全保障と繁栄に直結するとの認識を示し、政権の姿勢を強調した。
- 9/1米司法省がフェアユースを主張する意見書を提出
NYTは「1兆ドルのAI企業の味方」と反発した
NYTの広報担当グラハム・ジェームズ氏は「司法省はごく一部の時価総額1兆ドル規模のAI企業の側に立っている」と批判した。許可も対価もなくコンテンツを使えるようにすれば人間が生み出すコンテンツの持続可能性が損なわれるとしている。
司法省は逆の見方を示した。「ライセンス料が必要になれば支払えるのは資金力のある大手テック企業に限られる」「メディアが発信してきた文章量は膨大でライセンス料は不釣り合いなほどの利益をもたらす」と反論している。ライセンスという参入障壁が大手の寡占を生むことこそ公共の利益に反するという主張だ。
司法省とNYT側の主張を並べた
| 論点 | 米司法省 | NYT側 |
|---|---|---|
| AI学習は合法か | フェアユースにあたる | 著作権侵害にあたる |
| ライセンスは必要か | 参入障壁になり大手の寡占を生む | 対価を払うべき |
| 何が損なわれるか | 米国の競争力と科学の進歩 | コンテンツの持続可能性 |
Anthropicは15億ドル和解でも「学習は合法」と判断された
著作権とAI学習の争いはこの訴訟だけではない。ClaudeのAnthropicも作家から訴えられ15億ドルの和解金を支払った。ただし裁判官が罰したのは海賊版サイトを使って書籍を入手した点であり、AI学習にコンテンツを使うこと自体はフェアユースだと判断している。
ウィリアム・アルサップ判事は判決でLLMの学習を「読者になりたい作家」にたとえた。作品を複製するためではなく方向を変えて違うものを作り出すための学習だという見方だ。今回の意見書とも方向が一致しており、フェアユースを認める流れが強まりつつある。

ライセンスか訴訟か OpenAIへの対応は業界で割れている
意見書は裁判所への助言であり判決を直接左右するものではない。だが米政権が「AI学習は合法」と明言した事実は重い。NYT以外にも多くのメディアや作家がOpenAIを著作権侵害で訴えており、この意見書の論理はほかの訴訟にも波及しうる。
一方でAP通信やVox Mediaなど数十のメディアはすでにOpenAIとライセンス契約を結んでいる。NYT自身も2025年にAmazonのAIツールへ記事を提供するライセンス契約を結んだ。訴訟で争う相手とライセンスを結ぶ相手を使い分けている形だ。
日本の著作権法は米国のフェアユースとは異なる体系だが、各国の判断は互いに影響する。自社でAIツールを使う企業にとっても学習データの合法性はサービスの継続性に関わるため動向を確認しておきたい。
- フェアユース
- 著作権で保護された作品を許可なく使っても合法とされる場合がある米著作権法の法理。使い方が元の作品と異なるかで判断される
AI導入を支援する立場で見ると、気になるのは「ライセンス料は大手だけが払える参入障壁になる」という司法省の論点だ。中小企業がAIツールを安く使えている背景には各社が大量のデータで学習できていることがある。著作権者への対価とAIの利用コストは直接つながっており、この裁判の方向性がAIツールの料金にも影響しうるとみている。
- 今回の意見書は裁判の結果を決めるものなのか
- 法的拘束力はない。意見書は政権による助言としての位置づけであり、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所の判決を直接左右するものではない。ただし米政権が「AI学習は合法」と公に明言した初の文書であり、AI企業が著作権侵害の訴えに対抗する際の後押しになる可能性がある。
- Anthropicの著作権裁判ではどういう判断が出たのか
- Anthropicは15億ドルの和解金を支払ったが、裁判官はAI学習にコンテンツを使ったこと自体はフェアユースにあたると判断した。罰されたのは海賊版サイトを通じて書籍を入手した点であり、学習という行為そのものは著作権侵害にあたらないとされた。
この記事の出典
補助資料
- [1]CNET Japanこの記事の元にした報道
出典の最終確認日:2026年9月3日
