AIの進化はこの数年で飛躍的に変化してきました。その進化の中で目を見張るのは、「生成AI」の登場でしょう。生成AIが登場して私たちの生活だけでなく、ビジネスの世界でも仕事のあり方・進め方さえも大きく変わってきたのです。
この生成AIの礎となるのが半導体ですが、今この業界がどのような未来に向かって進んでいくのかを解説していきましょう。
生成AIの勢いで変化を見せる半導体業界
冒頭でも触れたように生成AIがこの世に登場してきて、色々な業界で活用されるシチュエーションが増えてきました。コールセンターでの顧客対応や社内でのチャットボット、あるいは商品企画部門での新規製品企画・マーケティングから設計支援まで、生成AIが利用されるジーンは多岐に渡っています。
この生成AIの進化が、半導体市場に大きな変化をもたらしているのです。
生成AI支える半導体
生成AIの台頭でなぜ半導体業界に変化が起こるのでしょうか?それは生成AIが機能的に作動するためには、半導体のクオリティが高いといけないためです。生成AIで認知度の高いツールの1つに「ChatGPT」がありますが、高い自然言語処理能力が高いため、人間がプロンプトにテキストを入力すれば、求める情報(コンテンツ)を生成してくれます。
人が求めるコンテンツを生成AIが導き出すためには、半導体の質が高いことが必須になってくるのです。具体的には、半導体の高密度化と微細化が挙げられますが、性能の向上とともに効率的なエネルギー消費も求められてきます。
生成AIが高度な処理を行うためには、半導体の質・性能自体の向上が必須になってくるわけです。
AI専用の半導体
半導体にはAIの処理に特化した専用の半導体があります。俗に「AI半導体」や「AIチップ」と呼ばれるものですが、「AIの頭脳」と言ってもいいでしょう。生成AIは非常に多くの情報を扱い高速で処理するため、AI専用の半導体が必要になるのです。
そのためAI半導体は、AI向けに設計されており、学習的なプロセスを踏むAI半導体は、GPU(グラフィック・プロセッシング・ユニット)として知られていますね。この他にも論理的なプロセスを持つFPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)やASICもあります。
生成AIを支えるAI半導体は汎用的なチップとは異なる特徴がある
AIの中でも目覚ましい進化を遂げている生成AI。このおかげであらゆる作業が効率化されたり、新たな価値を創造してくれます。そのベースとなるのがAIに特化した半導体(AIチップ)なのですが、汎用的な半導体とは異なる特徴があるのです。
高度なアルゴリズムで高速演算処理が可能
AIに特化したチップ(半導体)は、高度なアルゴリズムで高速演算処理が可能です。特に生成AIは深層学習(ディープランニング)機能を使って、ビッグテータを元にして人間の問い合わせに対して、必要な情報を提供しますが、これもAIチップならではの特徴。
その様はまるで人間が難しい問いに対して、熟慮して回答を導き出すようなものに似ていますね。あたかも人の意志が機械に宿っているかのごとく。それでも人間ではなし得ない高速の計算ができることは、さすが半導体の力だと言ってもいいでしょう。
低消費電力設計
AI専用の半導体は、消費電力を極限まで抑える設計が施されています。これはスマホなどの端末のことを考慮して消費電力を抑える設計が施されているのですが、モバイルデバイスやネットワーク端末に欠かすことのできない条件です。
効率性の高い演算処理ができるだけでなく、無駄なエネルギーを使わない低消費電力設計によって、少ない電力で性能の高いAI処理を行うことができます。
カスタマイズを簡単にできる
また、カスタマイズしやすい点もAI専用の半導体の特徴ですね。ニーズに合わせてフレキシブルに拡張できるため、色々なタイプのアプリケーションに対応することができるのです。
専用アクセラレータを搭載
汎用のチップより高度な計算を実現させるためにAI向けの半導体は、専用のアクセラレータを搭載しています。これは特定の計算をスピーディに行うためのものです。特に生成AIにとっては、アクセラレータの技術が重要な役割を司っているので、欠かすことのできない要件と言っても過言ではありません。
AI半導体業界を牽引するNVIDIA
出典:https://www.nvidia.com/ja-jp/
AI半導体の中でも際立った存在感を示しているのは、NVIDIA(エヌビディア)でしょう。同社はかつて、ゲーム分野で認知度を高めてきました。「PCのグラフィックボード(GPU)と言えば、NVIDIA」と言われるほど、この業界の中では著しい成長を遂げてきた企業です。
このNVIDIAが生成AIの中心的な存在と言ってもいいかもしれません。なぜなら同社が得意としているGPUの強みを画像処理以外にも広げてきたためです。GPUは複雑な演算処理を高速に処理するCPUとは異なり、単純な計算を並行して高速処理できます。
しかし、NVIDIAは、GPUを画像処理だけでなく、他の分野で活用できるように「CUDA(クーダ)」というプラットフォームに進化させていったのです。今や生成AIではCUDAのおかげで、大量の情報を学習させることが可能になりました。これにより生成AIの半導体業界において、同社は高い認知度を持たれるようになったのです。
生成AIの受託製造会社になったNVIDIA
NVIDIAは「ファウンドリー」と呼ばれるAI半導体の受託製造企業になりました。その生産規模は世界最大。実際の製造は台湾のTSMC(台湾積体電路製造)に委託しています。
しかも、AI向けの半導体を製造・供給するだけでなく、生成AIの活用サポートにも力を注いでいるのです。生成AIは深層学習(ディープランニング)というAI独自の学習機能がありますが、生成AIが利用者の問いに対応して適切な回答を導き出すためには、大量のデータを取り込み経験則を積み重ねておく必要があります。
それに必要な情報をNVIDIAがこれまで蓄えてきたデータを学習させて、利用者が独自の生成AIツールを開発するための「NIM(ニム)」というサービスも開発したのです。生成AIは多くの企業で活用されるようになってきましたが、NVIDIAはAI半導体の受託製造企業という枠組みを超えて、総合的な生成AIのコンサルティング企業として成長を目指しています。
生成AIの発展にはハードウェアとソフトウェアの進化が重要
生成AIがさらに発展していくためには、ハードウェアとソフトウェアの2つの進化が重要が鍵を握っています。まさに両輪ともよべる2つの進化がAIのベースとなるわけです。
ハードウェアがないとソフトウェアやアプリを使用することはできません。またアプリがないとハードウェアも単なる箱でしかないことは言うまでもありません。生成AIにおいては、まさに半導体がハードウェアになるわけですが、大量のデータを高速に並列処理できるAI半導体の性能がこれから生成AIの成長のベースになってくるのです。
生成AIは利用者のあらゆる質問に対応して、必要なコンテンツを生み出すことができます。そのジャンルはビジネスニーズである定型業務の代替・補完だけでなく、イラスト・曲・論文・小説など多岐に渡るコンテンツを生成してくれますね。これはビジネスに留まらず、政治・経済・金融・芸術・医学・法曹などあらゆる分野で人間のサポートをしてくれます。
全方位ともいえる大量の情報を学習させていく生成AIというソフトウェアは、それだけでプログラムの規模が大きくなるため、ハードウェアとソフトウェアの進化は必須となっていくわけですね。
生成AIの進化を支える半導体メーカー
これまでAI開発に携わるソフトウウェアエンジニアの人達は、生成AIはこれほどまで成長して、日常生活はおろかビジネス業界でも浸透していくとは思っていませんでした。なぜなら生成AIは機能するために、膨大な量の情報やデータを機械側に提供しなければならなかったためです。
ChatGPTを始めとする生成AIが実用上運営できるようになるためには、一定の学習レベルに到達しなければなりません。数百日もの時間をかけてデータを与えてAI側に学ばさせる必要がありました。しかし、半導体メーカーの絶え間ない努力によって、AI半導体の性能を飛躍的に高めていくことができたのです。
前述したようにAIの進化にはハードウェアとソフトウェアの成長が重要になってきます。生成AIに必要な事前の学習期間が100日必要だったとしたなら、ハードウェア側のAI半導体の処理性能を10倍以上高めることで、ソフトウェアの学習は1/10で済むことになります。
AI半導体業界でトップランナーを走るNVIDIAも、この点に着目して、高性能な半導体チップを作ることになったわけです。
生成AIが業務効率化を実現
生成AIはとりわけビジネスの世界において、新たな価値を創造しようとしています。これまで人間が時間をかけて行ってきた仕事を生成AIが担うようになり、社員はさらにクリエイティブな仕事に集中することができるようになりました。
中にはデザインなどの商品設計や建築設計から販促プロモーション・マーケティング活動でも生成AIが生み出す情報やコンテンツが大きな判断材料になることもあります。このようなことができる生成AIは社員をサポートしながら、業務効率化を実現しているのです。
このように高度なことができようになったAIは、生成AIツールを手掛けるベンダーの存在も大きいですが、Nvidiaなどの半導体メーカーの努力によるものも大きいと言っていいかもしれません。先に述べたようにハードウェアとソフトウェアは、生成AIの進化を支える両輪なのです。
生成AIを支える半導体が描く未来
これから生成AIは毎日繰り返される定型業務(ルーティンワーク)を請け負うことになるでしょう。そして、創造的な分野の仕事を人間が行っていくということになることが予想されますが、後はAI半導体がさらにどんな進化を遂げていくかということでしょう。
先ほども説明したようにすでにAI向けの半導体は、消費電力を抑えた設計になっています。しかし、これからデータセンターのように膨大なチップが必要になるロケーションでは、さらに進化したチップを搭載した機器が必要になってくるはずです。
そうなると膨大なデータ処理のために大量のエネルギー、すなわち電力が必要になってきます。そのためAI半導体もさらに限られた電力で高効率の処理ができるものが求められてくるようになるでしょう。
まとめ
AI半導体は、生成AIの進化を支える根幹です。これからさらに生成AIのニーズが広がることで、半導体の処理性能も飛躍的に成長してくると思われます。その一方で自然環境保護の観点からエネルギー消費の効率化も半導体メーカーの課題になるかもしれません。
これから数年の間はAI半導体の動向に注意する必要があるでしょう。